抹茶 matcha

抹茶と健康研究会

抹茶と健康の研究

抹茶と健康の研究

茶カテキン(ポリフェノール)が豊富で、テアニンなどのアミノ酸やルテインも含む抹茶。魅力たっぷりの抹茶について、助成研究の成果を中心に最新の知見をお届けします。

1. 抹茶とは?
注目の健康成分とは?

抹茶とは?

抹茶とは、一般的には被覆栽培(新芽の生育中に一定期間覆いをして光を遮る栽培方法)した茶葉を蒸した後揉まずに乾燥させた「碾(てん)茶」を、茶臼などで微粉砕した緑茶です。
覆いで遮光するのは、茶葉に含まれるうま味成分が、日光にあたって渋味成分に変化するのを抑えるため。そうしてうま味を高めた上質な茶葉は、濃厚で深い味わいと香りを生み出すのです。

抹茶で注目の健康成分は?

抹茶の成分・3つの特長

  • 1. アミノ酸(テアニンやうま味成分のグルタミン酸など)が多い
  • 2. ポリフェノール(茶カテキン)が煎茶(抽出液)の約2倍(図1)
  • 3. 茶葉をまるごと摂取するので、湯に溶けないルテインやビタミンKなどの(煎茶には含まれない)成分も含む(図2)
図1.煎茶と抹茶の違い

図1.煎茶と抹茶の違い(1)

図2.抹茶の健康成分

図2.抹茶の健康成分(1-4)

* 抹茶70mL当たり(抹茶1.5g使用)、**煎茶(抽出液)は1杯100mL当たり、***1日の摂取目安(栄養素等表示基準値)の29%に相当

1日1杯の抹茶で、
ルテイン摂取量が倍増!?

抹茶の健康成分のひとつにルテインがあります。ルテインは網膜でブルーライトなどの光を吸収し活性酸素による網膜の変性を保護している重要な成分ですが、カラダで作ることができないので、緑黄色野菜など食べ物から取り入れる必要があります。健康な日本人女性を対象に調査を行ったところ、1日当たりに摂取しているルテイン量は、平均1.1mgであることがわかりました(4)
一方、抹茶1杯に含まれるルテイン量は約1mgなので、1日当たりの平均摂取量とほぼ同じです。つまり、1日1杯の抹茶を飲むことで、ルテイン摂取量を約2倍にすることができる計算になるのです(図3)。

図3.日本人女性の1日ルテイン摂取量と摂取源

図3.日本人女性の1日ルテイン摂取量と摂取源

日本人女性(21-56歳)の1日平均ルテイン摂取量は、1.1±0.7mg(平均±標準偏差)。ほうれんそう、きゅうり、卵などから摂取が多かった。仮に抹茶1杯(ルテイン1mg含)を毎日飲むとルテイン摂取量は倍増する(4)

2. 抹茶と健康研究会・
助成研究の成果

1) おなかのために:悪玉菌の減少、善玉菌の増加- 抹茶による腸内フローラ改善効果 -

抹茶は、腸内フローラを変化させ、一部の悪玉菌を減らし、善玉菌を増やす可能性がヒト試験で示されました。

腸内には100兆個以上の細菌が存在し、腸内フローラ(腸内細菌叢)を形成しており、その全体構成やバランスの変化が健康と大きく関係することが知られています。腸内フローラは便性やおなかの健康を考える上で重要ですが、近年、肥満やがん・糖尿病・心疾患などの生活習慣病、アレルギーなどとも密接な関係があることが知られるようになり、注目を集めています。

京都府立大学の井上亮先生の研究によると、1日2杯の抹茶を2週間飲んだグループとプラセボ飲料を飲んだグループとを比較した結果、抹茶を飲んだグループでは摂取1週間後から腸内フローラの全体構成が変化し、摂取2週間後には慢性的な下痢や発熱を伴う炎症性腸疾患とも関係する悪玉菌であるFusobacteriumが減少し、腸の細胞の栄養となることでも注目されている酪酸を生成する善玉菌Coprococcusが増加することが確認されました(図4)。
抹茶は乳酸菌などの生きた細菌を摂取するプロバイオティクスや、難消化性オリゴ糖や一部の食物繊維のように腸内細菌の餌となるプレバイオティクスとは異なる仕組みで、腸内フローラのバランスを改善していると考えられます。

※所属は研究助成採択時のもの

図4.抹茶の摂取による腸内細菌への影響(ヒト試験)

図4.抹茶の摂取による腸内細菌への影響(ヒト試験)

男女大学生(n=32、18-25歳)を対象とした無作為化二重盲検試験を実施。抹茶群で摂取1週間後より腸内フローラの変化が認められ(p<0.05)、2週間後には、大腸炎、大腸がんの発症・悪化と関係するといわれているいわゆる悪玉菌フソバクテリウム(Fusobacterium)が減少、善玉菌のひとつ酪酸産生菌コプロコッカス(Coprococcus)が増加した(*p<0.05)。
※井上亮ら、日本食物繊維学会(2018)にて発表
2) ココロのために:マウスのストレス耐性が向上、探索行動が増加- 抹茶による社会心理的ストレスへの耐性向上効果 -

抹茶の飲用は、心理的ストレスの影響を軽減し、ストレス耐性を高める可能性がマウスを用いた実験で示唆されました(5)

精神的な素養が重要となる茶道で用いられてきた抹茶ですが、社会心理的ストレスに対する作用についての研究も行われました。農研機構の物部真奈美先生らの研究により、マウスに「水」、「煎茶」、「抹茶」、「低カフェイン抹茶」をそれぞれ2週間与えた後に、単独で飼育されていたマウスを他のマウスと対面させる方法でストレスを与えたところ、「抹茶」を摂取していた群は、4群中で最もストレス耐性が高い(探索行動が抑制されない)ことが示されました(図5)。
テアニンとカフェインを含む「抹茶」の効果が、テアニンが少ない「煎茶」や、カフェインが少ない「低カフェイン抹茶」を上回ったことから、テアニンとカフェインのバランスの良さが、抹茶のストレス耐性を高める効果に寄与している可能性が示唆されました。

図5.抹茶摂取と社会心理的ストレス耐性

図5.抹茶摂取と社会心理的ストレス耐性

単独飼育した後に対面させるとマウスは社会心理的ストレスを受けてストレス耐性の指標となる探索行動(この実験では十字迷路のオープンアーム滞在時間)が減る。2週間抹茶を摂取した群は探索行動(ストレス耐性)が増加した。テアニンが少ない煎茶、低カフェイン抹茶では効果が認められなかった(5)

続いて、喫煙者13名を対象としたヒト試験を実施しました。

参加者には、抹茶あるいはコントロール茶を2週間飲用した後、15日目に心理テストを受けてもらい、試験日は朝から禁煙するというストレスを与えました。

試験群では、「これから試験を始めます」という号令(突発的なストレス)をかけた直後の唾液α-アミラーゼ活性が、カフェイン摂取量に依存して高まり、特に1日のカフェイン摂取量が多い対象では急性ストレスに対し交感神経が興奮しやすくなる傾向が見られました。こうした傾向は対照群では認められなかったことから、抹茶の継続飲用によるストレス耐性の向上はカフェイン依存的に発揮される可能性が示唆されました(10)

3) 肌のために:ラットの皮膚血流が増加、肌水分の蒸散を抑制- 肌の健康に対する抹茶の効果 -

抹茶は交感神経を抑制し、血流を改善、肌の保湿効果を高める可能性がラットを用いた実験により示唆されました(6)

肌は外界との接点として自分のカラダを守る重要な臓器であり、肌の若々しさを保つことは美容や健康の面で重要です。自律神経系のひとつである交感神経の活動は、肌の状態とも深く関係することが知られています。大阪大学名誉教授の永井克也先生の研究によると、ラットに抹茶を与えることで皮膚動脈の交感神経を抑制し、皮膚血流を増加させたことが示されました(図6)。また、抹茶摂取2日後には肌水分の蒸散量に減少が見られたことから(図7)、抹茶には皮膚の水分蒸発を抑制する肌バリアの改善効果が見られ、カラダの内側から肌の保湿効果を高める可能性が示されました。この作用は茶筅で点てた抹茶で、より強くなることも示されました。

図6.抹茶摂取の皮膚血流に及ぼす影響

図6.抹茶摂取の皮膚血流に及ぼす影響

抹茶を胃内投与したラットでは大腿部の皮膚動脈交感神経が抑制され、皮膚血量が有意に増大した。茶筅で点てた抹茶が特に効果が大きかった(6)
図7.抹茶摂取の皮膚血流に及ぼす影響

図7.抹茶摂取の皮膚血流に及ぼす影響

抹茶を混ぜた餌を摂取したラットの肌保湿効果を観察。皮膚からの水分蒸散量は、抹茶摂取群のみ2日目から減少した(6)
4) スポーツに : 男子大学生のレジスタンス運動(筋トレ)効果を向上-筋力・筋量の増加を促進する効果-

抹茶は、スポーツや健康運動領域にも有用性が高いことが分かってきました。

京都府立大学大学院の青井渉先生の研究では、抹茶の摂取が、レジスタンス運動(筋トレ)による筋力増強、骨格筋量の増加を促進することが示唆されました。筋トレ習慣のない健康な男子学生19名が、12週間、毎日、筋トレを行い、1日2杯の抹茶飲料(1杯につき抹茶1.5g配合)またはプラセボ飲料を摂取したところ、抹茶摂取群で有意な骨格筋量の増加が認められました(図8)。筋力の増強についても、抹茶摂取群の方がより高い効果を得られたという結果が出ています。

抹茶を継続して摂取することによって、運動による身体的なストレス(疲労)が軽減されること、腸内細菌叢のバランスが改善されることも示され、こうしたことが、筋力や筋量の増加に結びつく可能性が示唆されました。また、抹茶摂取群で動体視力が向上することも確認されました。

図8.大学生の抹茶摂取による骨格筋量の増加

図8.大学生の抹茶摂取による骨格筋量の増加

試験デザイン:無作為化二重盲検プラセボ対照ヒト試験
対象:レジスタンス運動(筋トレ)習慣のない健康な男子学生19名
筋トレを毎日実施し、1日2杯の抹茶飲料(1杯あたり抹茶1.5g配合)あるいはプラセボ飲料を12週間摂取した。
5) 脳のために① : 高齢女性の認知機能を向上-認知機能テスト結果が改善-

抹茶が、高齢女性の認知機能の維持あるいは改善に貢献する可能性が報告されました。

東京大学大学院の久恒辰博先生は、健康な高齢者を対象として認知機能と抹茶摂取の関連性を調べました。60歳~84歳の対象者39名に、12週間、毎日、抹茶(1日あたり3g)あるいはプラセボ飲料を摂取してもらう、無作為化二重盲検プラセボ対照試験を実施しました。認知機能テストは、軽度認知機能障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)を検出するためのスクリーニング検査でも使用され、「実行機能」「命名」「注意」「言語」「抽象概念」「遅延再生」「見当識」の7項目について評価するMoCA試験(Montreal Cognitive Assessment)を用いました。検討の結果、抹茶群の女性において、認知機能テスト(MoCA試験)のスコアの上昇が、プラセボ群よりも有意に高いという結果が得られました(7)。メカニズムとして、これまで報告のある茶カテキン(8)に加え、抹茶に豊富に含まれるビタミンKも関与している可能性が、重回帰分析の結果から推察されています。

6) 脳のために② : マウスの脳の毛細血管の老化を抑制-脳の毛細血管の減少を予防する効果-

抹茶が、加齢による毛細血管の減少を予防する可能性が見出されました。

老化に伴う、毛細血管の構造的あるいは機能的な破綻が、さまざまな神経疾患、アルツハイマー病や認知症のもとになることが、最近の研究で明らかになっています。

神戸学院大学大学院の水谷健一先生は、脳の血管老化に対する抹茶摂取の影響を調べるために、蛍光標識を用いて毛細血管を可視化する血管レポーターマウスを用いた試験を行いました。マウスに30週間、毎日、2%の抹茶を含む飼料もしくはコントロール食を与えた後、大脳皮質領域における毛細血管の密度を比較したところ、抹茶摂取群の方が有意に高いという結果になりました(9)(図9)。

さらに、組織培養実験と細胞培養実験によって、抹茶に豊富に含まれるルテインやビタミンKに血管新生を促進する作用があることも明らかになっています(9)

図9.抹茶による脳毛細血管の老化予防

図9.抹茶による脳毛細血管の老化予防

対象:マウス
7週齢から37週齢までの30週間、2%の抹茶を含む飼料もしくはコントロール食を毎日与えた。
7) 守るために:抹茶による肺炎球菌の殺菌作用と毒素阻害作用

日本人の死因第3位である肺炎(誤嚥性肺炎を含む)の主な原因細菌は肺炎球菌であり、抗生物質の頻用が一因となり、年々抗生物質が効きにくい耐性菌が増加しています。

新潟大学大学院の寺尾豊先生は、これまでに、国内の市中で分離された肺炎球菌のうち80%以上はマクロライド系抗生物質が奏効しないこと、同菌のPLY 毒素(肺炎球菌の感染時にヒト赤血球やヒト免疫細胞を傷害する毒素)が肺炎重症化に重要な役割を果たすことを明らかにしてきました。

そして、抗生物質に代わって肺炎球菌(耐性菌を含む)を殺菌する素材として抹茶に注目し、解析を行ったところ、加熱した抹茶は、飲用よりも低濃度で肺炎球菌に対して殺菌作用を示しました。また加熱した抹茶には、PLY が毒力を発揮する際に必要な重合体形成を阻害し、細胞毒性を妨げる作用があることもわかりました。

こうした効果は、抹茶に煎茶の約5倍含まれているEGCG(カテキン成分)が、主に担うことも確認されています(11)

図10. ヒト免疫細胞の肺炎球菌毒素PLYによるダメージと抹茶による回復

図10. ヒト免疫細胞の肺炎球菌毒素PLYによるダメージと抹茶による回復

培養細胞実験
肺炎球菌のPLY毒素をヒトの免疫細胞に添加すると細胞は死滅する(右上)。
65℃で抽出した抹茶の上清を添加すると、死滅が低く抑えられ、生細胞率が増加した。

参考文献

  • 1) 日本標準食品成分表2020年版(八訂)
  • 2) Horie H et al. 日本調理科学会誌 50, 182-8: 2017
  • 3) 堀江ら. 茶研報91, 29-33: 2001
  • 4) Fukushima Y et al. Int J Vit Nutr Res 2021;1-12 (Epub ahead of print)
  • 5) Monobe M et al. Biosci Biotechnol Biochem. 2019;83(11):2121-2127
  • 6) 永井克也. 食品と科学61(7), 14-20 (2019)
  • 7) Sakurai K et al. Nutrients. 2020;12(12):3639
  • 8) Baba Y et al. Molecules. 2020;25(18):4265
  • 9) Iwai R et al. J Nutr Sci Vitaminol. 2021;67(2):118-12
  • 10) 物部真奈美ら. 茶業研究報告. 2021;131:9-14
  • 11) Sasagawa K, et al. Antibiotics. 2021;10(12):1550-1569

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